出典がみつからないのですが、社会学者のひとが語った子育ての要点に興味を持ちました。それは、子育てをするなかでいちばん重きをおいたのは、「自分は自分。人は人。」ということを子どもに伝えることです。
わたしたち大人は、子どもにいうことをきかせるためについ、「〇〇くんはなになにだねー」とか、ほかの子と比べるようなことを言います。子どもをコントロールする方法として、比べるのはとても有効です。人間は人と比べる性分を持っていますから。大人だって「会社の〇〇さんが」とか比較を持ち出されると心がグラグラします。歳とっても「ワシは〇〇より若い」なんてやっぱり比較にこだわっています。人と比べることは優越感というとてもいい気持ちを人間にくれます。けれども、常に優越感だけをもらえるわけではありません。優越感をもらう裏側には劣等感をもらうことが必ずくっ付いてきます。仏教ではこれを驕慢(きょうまん)と言って、人間が人生を喜ぶことのできない原因だとします。
人と比べることは何かをする原動力になります。だから勉強でもスポーツでも仕事でも比較して競争心を煽り立ててするのですが、人と比べるだけの生活はストレスが多く、安定することのできないものになります。それでも、比べることがなかったら、人間何も努力しないだろう。という見方が普通ではないでしょうか。どうでしょうか、みなさんは趣味とか好きなこと、やっていて楽しいことはあるでしょうか。そして、その好きで楽しいことは比べることで始まったのでしょうか。「努力するのは目標を達成するためだ」という見方がある一方で、「人間が一番楽しいときは、夢中で努力できているときだ」という仏教の見方があります。これを三昧(さんまい)と言います。三昧にはいることで人間はほんとうに生き生きしてくるのです。人間が何かに興味を持つ、その発端は本質的には比べることとは無関係なことだと思います。その興味によって、楽しいから努力するという世界が生まれます。学問でも、スポーツでも、なんでも人間をほんとうに高いところまで導くのはこの尽きることのない興味ではないでしょうか。
そうは言え、どんな人間でも比べることと無縁でいることはできません。どうしても気になる。比べずにはいられない。だからこそ、その比べる生活のなかで比べないことを大切にするのです。子どもを何人か育てておられるかたは、どの子どもも他の子では代わりがきかないということを実感していると思います。性分だから比べるけど、その根っこには比べられないものがある。
比べることから解放されて子どもは友だちに、先生に、親に流されない生活を発見します。生きることにはいろいろな苦労が伴いますが、いちばん苦しいときに頼りになるのは自分を比べない心なのです。「自分は自分。人は人。」これを子どもに伝えることは、大事だと思います。
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