今月のえんちょうのことば

えんちょうが毎月あたまをひねって絞り出したことばです。
お坊さんモードでお話いたします。

思想家のこそだて

思想家 吉本隆明さんの著作に「ひきこもれ」というのがあります。ひきこもりと言うとよい印象がありませんね、子育てちゅうの保護者さんが「ひきこもり」と聞いたら、「ウチの子がひきこもりになったらどうしよう」と、心配になるだけなのではないでしょうか。

吉本隆明さんはふたりの娘の親です。吉本さんは、娘と遊んだとか、積極的に子育てに参加したとかいうことはないといいます。ただひとつ、子どもの時間を邪魔しないということだけは特別心がけたそうです。吉本さんはこども、いや人間にとってひとりの時間はとても大切な時間だとおっしゃいます。まとまった時間をこどもに持たせることが大事なのです。それは、一人でこもって過ごす時間こそが「価値」を生むからです。

「お使いを子どもに頼むくらいなら、自分で買い物かごをもっておかず屋さんにでも何でも行くようにしていました。他のことではだらしない、駄目な親でしたが、それは意識してやっていましたね。」

「自分の時間をこま切れにされていたら、人は何ものにもなることができません。ゆくゆくはこれを職業にできたらいいな、と思えるものが出てきたらなおのこと、一人で過ごすまとまった時間が必要になります。はたから見ると、何も作り出していない、意味のない時間に思ても、本人にとってはそうではないのです。」

幼児期もひとつ、こどもが遊びに集中しはじめたら邪魔をしてはいけないということがあります。こどもが何かに興味を持ったときに、大人はよかれと考えて干渉しがちですが、こどもからするとほおっておかれるほうがメリットが大きいのです。仏教ではこの集中した状態を三昧(サマーディ)と言い、これをとても価値のある状態だといいます。

ひきこもるのは悪いことだから、ひきこもりを治してあげようと活動するひともおりますが、吉本さんはそれについて「自分の尺度を他人に当てはめ、大きな声でものを言ったり善意の押し売りをするのは愚かなことです。」とおっしゃっています。

さて、その吉本隆明さんのふたりの娘さん。ひとりはハルノ宵子さんという漫画家、もうひとりは作家の吉本ばななさんです。

えんちょう先生